森の中では、人はとても心細い存在だ。

たった一人で道なき森に迷い込んだことが

あるだろうか。


山歩きを多くする私は、この八ヶ岳南麓から

見渡せる山という山ほとんどを踏破した。

けれども道に迷ったことはない。

それなのに、

もりにまよいこんだ・・・・・・・・。


ある日敷地で建築のインスピレーションを得ようと

集中しようとしている時だった。

梅雨明けしたばかりの日差しの強い日だった。

小指ばかりもある大きなアブが大量に

まとわりついてきた。

アブはとまられてから吸血するまで1秒ほどの

タイムラグがあるからその間に落ち着いて

手で払えばよい。しかし・・・・、

大量に来襲された場合なすすべがない。

針で刺された痛さ、そして後で腫れてくる。


たまらず森に逃げ込んだ。

倒木に躓きながら、

苔むした岩を避けながら、

気が付くと方向感覚を失っていた。

深い森で太陽が見えないから方位がわからない。

あせった。

久々に怖い思いをしたのだった。