ピサの斜塔を除いて、建物は真っ直ぐに建っているのが当たり前です。
ですが、ひと口に真っ直ぐ建てると言っても、建物の構造や形態によっては、そこに様々な技術が必要になるのです。その「真っ直ぐに建てる」ことに関連する工事で、有ってはいけない出来事があったそうです。

RC(鉄筋コンクリート)の建物を造るとき、床のコンクリートは一枚の板のように造ります。
この床をスラブと呼ぶのですが、このスラブで建物の強度を確保したり、上下階の音の伝播に配慮したりしています。マンションのような大きな建物の場合には、給排水設備や空調設備の配管が、スラブを貫通するような場合がありますが、この時にはスラブに穴を開けておき、そこに配管を通した後で、隙間をコンクリート等で埋めて処理をするのが一般的です。

これは下の階からの火災の延焼を防ぐためなので、基本中の基本作業ですし、この作業を上手に行わない設備屋さんが居ると、建築の監督さんは鬼のように怒ります。

【余談】基本的にスラブに穴を開けたいのは、配管を通したい設備屋さんだけで、建築にはあまり関係ないことなのです。これは大規模な建物を造るときに 建築・給排水・電気・空調 と、その工事内容によって分担が分かれ、その統括を行っているのが一般的には建築だという、組織の形態が分からないと、イマイチピンと来ない話かもしれませんけどね。

配管を通すとき以外に、唯一スラブに穴を開けるのが、建物の垂直を調べるときに使う穴。ここに錘の付いた下げ降りを通し、測量機械で測るのです。勿論、この穴も用が済んだら埋めてしまいます。
・・・・・・が!埋められていなかった公共賃貸住宅が発見されてのです。それも沢山。 このスラブに穴が開いた穴埋めの成されていない公共の賃貸住宅は、全国で536棟、住戸数にして1034戸も有ることが分かったそうです。ひょっとするともっとあるかもしれませんが、朝刊に載っていたのは、この数字でした。
この話を聞いて、一般の方の99.9%までが「へぇ~~~、で?」と言う印象しか持たれないかもしれませんが、実はこれ、大変なことなのですよ。

開いていた穴の大きさは直径15cm。
この穴が、一つの階に4箇所程度開いていたのです。

と言う事は上の階の床材を剥がせば、コンクリートの穴越しに、下の階の天井裏が見えると言う事。
たぶん、それは30cmにも満たない距離だと思うのですが、万一下の階から火事が出れば、上の階の床下に火が付くのは、あっと言う間のことでしょう。また、そんな非常時ではなくても、日常的に上下階の音が、文字通り筒抜けだったと思うのですが?

たった15cmの穴では、人が通り抜けることは無理ですが、蛇なら可能です。
と言う事は、あの事件がホンマものになってしまうと言う事!
そして人が歩かなくても、ファイバースコープなら潜り込ませる事が可能ですから、あの散歩者だって可能になるし、資産家の老婆が天井裏から視線を感じた、あの事件だって現実になってしまうー!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いろんな意味で恐ろしいのですよ、はい。

このネタで短編を、是非お願いします。

天工舎一級建築士事務所